記念座談会

第120回 日本外科学会定期学術集会

「命と向き合い外科医として生きる」

外科医の誇りと最新技術を、
より良い医療のために

今年、横浜で開催される予定だった120回目の日本外科学会定期学術集会は、新型コロナウイルス感染拡大のリスクを最小限にするため、完全WEB形式での開催となった。外科学の未来を切り開く技術革新、次世代手術支援ロボット、外科医の精神構造に迫るなど多彩なプログラムをライブストリーミングで届け、「未来を担う若手外科医からのメッセージ: 横浜宣言2020」も発信された。
開催を記念し、2020年1月に、若手医師2人と、定期学術集会会頭の北川雄光先生、日本外科学会理事長の森正樹先生との座談会が実現した。フリーアナウンサーの岩瀬惠子さんの進行で行われた活発なやりとりの模様をお届けする。

外科でなければ救えない、最後の砦の責任と手応え

岩瀬 今日は、若手からベテランまで、ご活躍の医師のかたに集まっていただきました。私たちは日頃、外科医を扱ったドラマや映画を楽しんでいますが、実際の外科はどのような仕事で、医療のどの範囲までを担うのか、実はよくわかっていません。一般の方向けに、現役医師の立場から教えていただけますか。

 外科領域は、心臓血管、消化器、呼吸器、小児、乳腺、内分泌など非常に広いのですが、共通して言えるのは「メスで治す」ということです。手術を中心に、患者さんの状態をコントロールする「術前管理」と、手術後から日常生活に戻るまでを診る「術後管理」も外科医の重要な役割です。また最近では、腫瘍内科や放射線科、投薬の専門家など多数の科と協働することも必要です。

岩瀬 歴史の中で変わってきたこともありますか。

 悪いところを切る、という基本は同じですが、そのアプローチ法には変化もあります。昔は大きくおなかを切って、患部を見て手術していましたが、今は小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術がメインになってきています。

森 正樹先生

岩瀬 切るのが外科の仕事なんですね。皆さんはその外科をなぜ選ばれたのでしょうか。

北川 私の学生時代はがんが転移するメカニズムが解明されてきたころで、自分もそのがんの治療に携わりたいと思いました。また、医学部6年の時にアマゾンの奥地の病院で一人の医師と行動をともにし、マラリアなどの寄生虫疾患を診ながら外傷や出産にも対応する様子を目の当たりにしました。「地球のどこかで医師として生きていくには、外科手術ができなければ」と実感し、自分の手で患者さんを救いたい、と考えたのです。

北川 雄光先生

岩瀬 貴重な体験ですね。

古来 僕はもともと理系の教師を目指していました。でもある日、北海道の医師不足というニュースを見て、自分の地元の釧路で外科医が足りないと。それならば自分が外科医になって故郷に貢献しようと思ったんです。

石田 私の場合は医学部時代に結婚・出産をしたのですが、子どもを持ってみると、子どもの将来、その先の孫の成長が楽しみになる。そうした未来を断ち切ってしまうがんから人を救いたいという気持ちが強くなりました。外科手術はどうしても患者さんの体に負担をかけますから、なるべく薬だけで治ったほうが良いです。しかし、薬も効かない、切らないと命が危ない、というときは外科医しか救えません。助けを求める患者さんが最後に頼れる存在になりたいと思っています。

岩瀬 手術でなければ救えない命があるということで、外科は「最後の砦」といわれているんですね。一方で、非常に多忙な職場だと伺っています。

 常に1人の外科医が10~15人の患者さんを受け持っていて、ある患者さんの手術に向き合っている時もほかの患者さんの術前・術後管理や診察、家族への説明などをしなければならないので、基本的に忙しいですね。

石田 責任の重さなどの精神的な負担は覚悟していても、実際の医療現場に入ると、労働の肉体的な負担は大変です。長時間病院にいる、いつ呼び出しがあるかわからないなど。女性は外科医になったら結婚も出産も諦めなければならないと言われることもありました。

一般社団法人日本外科学会理事長
九州大学消化器・総合外科

森 正樹先生

もり・まさき/1980年九州大学医学部第二外科入局。86年同大学医学系大学院修了。91年ハーバード大学留学。98年九州大学生体防御医学研究所教授。2008年大阪大学大学院医学系研究科教授。18年九州大学大学院医学研究院教授。専門は下部消化管悪性疾患、良性疾患の外科治療など。14年から日本外科学会理事、17年理事長に選任される。

第120回日本外科学会定期学術集会会頭
慶應義塾大学外科(一般・消化器)

北川雄光先生

きたがわ・ゆうこう/1986年慶應義塾大学医学部卒業、93年カナダブリティッシュコロンビア大学留学、96年外科副医長として川崎市立川崎病院出向、97年慶應義塾大学助手、2004年同大学専任講師、07年同大学教授(医学部外科学)。09年慶應義塾大学病院腫瘍センター長、11年同副病院長、17年同病院長。専門領域は一般・消化器外科。

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